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ピエル・キュリー。            マリー・キュリー夫人。ピエル・キュリー伝より。


      ピエル・キュリー。



       マリー・キュリー夫人。
       ピエル・キュリー伝より。

 

…最後にこの小編の全体に就いて、一言の締め括りを申し添えましょう。私がこの短い伝記で皆様の心の裡に思い浮かべて頂きたいと試みたものは、己の理想に対する奉仕のために不屈の忠節を抱き、天才と資性の飾らざる偉大さの中に無言に活き抜かれたる研究生活によって、人類に光栄を齎した一人の人間の像であります。彼は新しき道を拓く人の信念を持っておりました。彼は果たすべき高き使命を持って生まれたことを知っておりました。彼の青年時代の神秘的な夢想は、打ち勝ち難き力を以て、彼を人生の有りきたりの道から遂い遣り、彼自身が反自然的と名づけた荊の道を歩ませたのであります。この道はあらゆる生活の安易さに対する断念を意味しました。併し彼は決然として、彼の思想も彼の欲望も、この理想に服従せしめました。そして彼は、段々この道に自らを適応させ同化せしめました。科学と理性との平和的なる威力のみを信じ、彼はひたすら真理の探究のために生き通しました。先入見や偏見に捉われることなく、物の研究に於いても、他人または自己の理解に於いても、共通な公平心を保ち続けました。あらゆる賤しき欲望より超脱し、優越とか栄誉とかを追い求めることのなかった彼には敵というものありませんでした。それにも拘わらず、彼の努力は、彼をして文化の歴史の各時代に於いてその時代に先行していた選ばれた人々の一人としました。これらの人々と同じように、彼はただ、彼の内的な威力の放射のみによって、深遠な影響を人類に及ぼしたのであります。
 後略

 
 
 
 
 
 

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