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[来賓挨拶]  粟津則雄

無類の生命力と集中力
本当の冒険
元金を賭け 損したら
ゼロになる仕事

粟 津 則 雄 (文学者、批評家、いわき市立草野心平記念文学館館長、芸術院会員)

 

 開館10周年、遠藤さん、心からお祝い申し上げます。
 遠藤剛熈さんと初めて会ったのは、もう17、8年前のことです。当時は遠藤さんのお名前も、もちろん作品も存じ上げなかったのですが、突如としてあのほっそりした姿で東京の私の家に現れました。「絵を見ろ」と言うんです。今日も飾ってある風景画などを拝見しました。びっくりいたしました。デッサンに込められた生命力、それに注がれた集中力。ちょっと無類のものでしたね。相手が有名とか無名とか、若いとか年寄りとか関係なしに、一気に私をつかみましたので、それ以来現在までのおつきあいが続いております。
 私は1973年ごろにしばらくパリで暮らしておりまして、そのとき、せっかくパリに来たのだから現に起こっているものを見てみようと思って、美術館だけでなく画廊を軒並み見て回ったんだけれども、大変失望いたしました。いろんな新しい試みはある、冒険しているように見える。全く新鮮な着眼もある。だけどもそれは、利子だけで賭けをしている。いちおう絵画上の冒険をしているように見えるんだけれども、要するに利子しか賭けてない。損したって、元金は元のままなんです。
 そういう作品を見て、その中でびっくりするような作品は、たいていがフランスではなくてアフリカや北欧、あるいは中近東の画家たちの作品であり、パリのはうまくて冒険に見えているんだけれど、ほんとうの冒険ではない。
 大損したように見えても、元金はちゃんととってある。という作品を見て私は大変がっかりしました。
 ところが、遠藤さんのお仕事は元金賭けてます。損したらゼロになります。そういう仕事をする人は非常に少ないんです。だからこれは大変疲れる仕事で、皆様が今日ごらんになったとおり、あの絵に込められた生命力、それに注ぐ集中力は、これは生半可なことじゃ続かない。くたびれますからね。ところが遠藤さんは、この美術館ができて10年たったその間も、いささかも自分自身を甘やかすことなく、初めて拝見したときと同じような集中力と同じような生命力の探究を続けていらっしゃる。これは感嘆すべきことで、心からの敬意を表します。
 これからも、こういう仕事をお続けになるように心から楽しみにいたしております。

                   (文学者、批評家)

 
 

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